このままでは運送業は大廃業! ここを押さえろ!! ~運送業編~

1. 2025年までの運送業の経済見通し
2. 2024年問題対策、残業時間の上限確定
3. トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン、
ここを改善しないと公正取引委員会による勧告・公表
4. 粗利益改善のために下請け代金支払遅延等防止法を活用して運賃の値上げを荷主に認めさせる
5. ドライバー不足対策は今からこうする
6. 安全投資
7. ビジネスモデルの選択

運送業は小売業や建設業と違って在庫準備ができない業種。日々の業務の連続をいかに効率的に行うかで勝敗が決まる。ドライバーや業務も在庫として保管できず、急な仕事には対応できない。そのためにしっかりとした事業計画を立てて、一つひとつの業務をいかに利益に繋げるかという視点で経営をしなくてはならない。
事業者数は年々増加し、保有台数は10台以下が半数を超え、20台以下を含めると全体の80%に及び、法人数は6万社を超える。利益に関しては保有台数50台以下の会社の60%以上が赤字を計上している。その赤字の解消のために人件費を下げて凌いでいる。

1. 2025年までの運送業の経済見通し

 ●車台数20台以下の運送業の淘汰が起こる。
 ●平成2年に施行された物流二法は、新規参入事業者の急増と市場競争の激化をもたらした。
 更に平成15年に貨物自動車運送事業法が改正され、経済的規制が更に緩和された。
 こうして新規参入事業者が急増し、運賃の低下を招いた。
 現在では参入と退出事業者数の割合は同程度である。
 ●10%の大手運送企業と90%の中小零細企業が世の中を2分している。
 各種規制はあるものの、現実には運賃値上げは困難。
 ●典型的な労働集約型の事業で人件費率は40%、燃料費率は15%となっている。
 営業利益率では大企業でわずかながら利益が出ているが、
 中小零細企業に至ってはマイナスとなっている。
 ●円安の状況が2023年末までは続くと見ると燃料費率は更に向上する。
 ●ドライバー不足が更に深刻になり、人手不足倒産が増加する。

2. 2024年問題対策、残業時間の上限確定

2024年4月から運送業にもドライバーの時間外労働時間に年間960時間の罰則付き上限規制が課せられる。改善基準告示違反は事業停止、営業取消の行政処分。また、労働基準法違反は刑事処分もある。
≪問題点≫

 ① 時間外労働時間の上限設定
 ② 割増賃金率のアップ
 ③ 未払い残業代の請求期間延長
 ④ 有給休暇の取得義務

≪対策≫
① 時間外労働時間の上限設定
今後、働き方改革関連法の改正が予定されているためにドライバーの残業時間は、今まで以上にしっかりとした管理が必要となる。
ドライバーは出社から退社までの業務を分割して効率を上げる取組みが必要。
ドライバーの業務は、点呼、整備、運転、荷待ち、荷下ろし、休憩、洗車、業務日報作成、報告等と多岐にわたる。これらの各業務を運行管理者と協力して仕組みを作り、規制の範囲内で収める必要がある。

② 割増賃金率のアップ
 ● 2023年の4月から中小企業でも一ヶ月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金が現在の25%から50%に引き上げられる。深夜労働の場合は深夜割増賃金25%+時間外割増賃金で合計75%となる。
 ● 慢性的に残業があり、所定休日出勤もあると月間残業時間は60時間を超える可能性が高い。人件費も上がり、年間960時間を超えれば労働基準法違反で刑事処分もある。

③ 未払い残業代の請求期間延長
2020年に労働基準法が改正され、未払い残業代を請求できる期間が従来の2年間から5年間になった。経過措置として現在は“3年間”である。未払い残業代請求は「3年間で1.5倍、5年間で2.5倍」となる。そうなると弁護士や合同労組から請求を受けることも多くなる。

④ 有給休暇の取得義務
2019年4月から1年間に10日以上の有給休暇が給付される社員に1年間に5日以上の有給休暇を取得させる義務が課された。違反した場合には違反社員1人に付き30万円の罰金となる。10日以上の対象者とは入社して6ヶ月間継続して雇われていて、その労働日の8割を出勤している社員のこと。
 ● 有給申請のルールを『就業規則』に明記する。
<例>
有給休暇を申請する場合は指定の方法で1週間前までに届け出る。
 ● 社員の年次有給休暇が1年間に5日に満たない場合は、その残りの日数について社員の意向を聞いた上で事前に「●月●日に休暇を取得してください」と指示することで5日間の消化が達成される。休日出勤は有給休暇の対象とならない。

 ● 『有給管理簿』の作成は義務化されている。
従業員ごとに基準日や有休の残日数、何日付与したかを作成しなければならない。保存期間は3年間。
≪懸念事項≫
人手不足の折で、社員が休むと仕事が回らなくなる!!

3. トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン、ここを改善しないと公正取引委員会による勧告・公表

国土交通省は貨物自動車運送事業法を改正して、荷主との取引も対象とする「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」を出している。

 ● 取引推進ガイドラインの概要
トラック運送事業者との運送取引において、荷主が遵守すべき内容として下記の11項目を挙げている。

 ① 運賃の設定
 ② 運賃の減額
 ③ 運送内容の変更
 ④ 運送に係る付帯業務の提供
 ⑤ 荷待ち時間の改善
 ⑥ 書面の交付、作成、保存
 ⑦ 運賃の支払遅延
 ⑧ 長期手形の交付
 ⑨ 購入・利用強制の禁止
 ⑩ 報復措置の禁止
 ⑪ その他


 
※図はLOGI-BIZ 2022年8月号より抜粋

4. 粗利益改善のために下請け代金支払遅延等防止法を活用して運賃の値上げを荷主に認めさせる

運送や保管サービスは2004年から下請法の対象となった。これは、運送業者に対する荷主の優越的地位の濫用を防ぐための措置として、独禁法に基づき指定したもの。つまり、運送業者による荷主への運賃値上げ要請を従来のように“門前払い”してはならないという法律である。特筆すべき点は下記の4点である。

① 燃料・原材料の価格転嫁
② 人件費の高騰による価格転嫁
③ ドライバーの荷上げ

・荷下ろし等の運転業務以外の負担金
④ 荷待ち、荷下ろし等の延長時間の請求
※ 公正取引委員会は優越的地位の濫用の防止にあたる“優越Gメン”を発足した。

※表はLOGI-BIZ 2022年8月号より抜粋

5. ドライバー不足対策は今からこうする

現状における運送業におけるドライバーの有効求人倍率は4倍。以前は、ドライバーの収入は頑張れば年間1,000万円という時代もあったが、現在は種々な規制により不可能。
全国の労働者の平均年間賃金は約500万円、それに対して中小型ドライバーは420万円、大型ドライバーでも500万円。
将来的に車は自動運転化となるだろうが、それは不透明。今後はドライバー不足廃業・倒産が増加することは必至。

≪対策≫
 ● 労働環境を改善する
 若者でも馴染めるような社内の雰囲気、言葉遣い、労働時間、IT化などを進める。また、社内の風通しを良くする。
 ● 福利厚生を充実させる
 残業時間の適正化、有給の完全消化、各種手当の充実、育児休暇制度等。
 ● 高齢化対応として若者の採用
 現在のドライバーは70%が40歳以上、29歳以下は10%。若者採用のための調査を行う。
 ● 女性ドライバーの採用
 現在の女性ドライバーは全体の3%。
 職場内で女性用トイレ、休憩室、制服、言葉遣い等の改善。女性専用の求人サイトも活用。
 ● 採用・教育計画を抜本的に見直して新たに作成(採用管理ツールの導入)
 ● 労働に見合った給料の仕組みを新たに構築
 ● 免許取得支援(大型免許取得費用は30万円程度)
 ● 作業の機械化や自動化を検討
 ● 長時間労働、重労働等の“悪いイメージ”を取り除く努力をする

6. 安全投資

 優秀企業に共通するのは安全に関する費用を“投資”と考えて予算を組んでいる。
 社内で資格制度を作り、社内に指導員をおいて個別指導が行われている。
 一度、重大事故を起こすと国土交通省より抜き打ち監査が入り、営業停止などの行政処分が下される。

≪対策≫
 ● 経営者をトップとして“安全管理規程”を作成し、安全統括責任者を任命し、権限を持たせる
 ● 安全性評価事業(Gマーク)を取得して全従業員に周知徹底する
 現在では業務の受注時には大きな要素となっている。
 反対にGマークを取得していない会社は失注する可能性が高い。
 ● 定期的(毎月一回は最低)に健康状態をチェックシートに記入確認する
 ● 長時間労働の廃止、適正残業、休息期間の確保

 ● スピードの出し過ぎ、車間距離の確保等をタコメーターで確認。エコドライブの徹底
 ● 車両の法定点検の確実な実施、アイドリングストップ、効率の良い走り方指導
 ● セミナー、講習会、社内勉強会で安全教育を周知徹底する

7. ビジネスモデルの選択

今後10年間で運輸業(運送業とは荷物を運ぶ業務のみ)の形は大きく2極化する。

① 総合運輸業
② 特定化された運送業

現在の運送業は、ざっと見ると下記のような業態が存在する。これらの業態は今後、独自に変改していくと思われる。

 ● トラック運送業
 ① 長距離運送
 ② 中距離運送
 ③ 短距離運送
 ④ 単品運送
 ⑤ 軽貨物運送
 ⑥ 宅配運送
 ⑦ 引越運送
 ⑧ 特定業種運送

大企業以外の運送業は、専門化なしでは今後は生き残れない。

■最後に

現在の中小零細の運送業は、利益を出すことが非常に難しい。また、国土交通省、労働基準監督署の規制は今後、更に強化される。そのような状況下で過去のドンブリ経営では生き残れない。
しっかりとした根拠に基づいた科学的な経営が求められる。特に2023年から2024年は廃業や倒産が予想される業種である。

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