中小零細建設業が生き残り成長するための7つの課題と対策 ~建設業編~

1. 労働生産性が改善されない
2. 多重請負構成
3. 絶対的な資金不足
4. 技術の習得までの期間が長い
5. 大企業を除いてデジタル化が遅れている
6. 大企業を除いて同業他社や他業種との連携が遅れている
7. 大企業を除いて経営に対する勉強意識が少ない

概要
1. 労働生産性が改善されない
一般社団法人日本建設連合会『建設業ハンドブック』によると、過去20年間、全産業で20%程度労働生産性が向上。製造業にいたっては50%向上。しかし、建設業は横ばい。
人手不足。特に若年層の不足。全国平均の有効求人倍率は1.45倍(国土交通省2020年)しかし、建設業は5倍超。
高齢化が進み、近い将来、退職者が増加し人手不足に拍車がかかる。長時間労働、4週4休などで休日も少ない。3K問題。2024年4月1日からは時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間。違反は罰則。
2. 多重請負構成
建設業は元請け、一次請け、二次請け、更に専門部門とそれぞれ役割がある。中小零細企業は信用力の無さから上部のポジションを取れない。上部から下部に行く程に利益率は小さくなる構造。更に業態によっては閑散期があるために常時雇用を維持することが難しい。構造的には典型的なピラミッド構造である。
3. 絶対的な資金不足
建設工期が小売業等と比べて長期に渡るために、資金回収期間が長い。そのために借入金依存度が高い。当然、利息の負担率も高くなる。また、業態によっては短期借入金が増加し、経済状況が一変すると一気に悪化する。
過去のバブル崩壊、リーマンショック等はその典型的な例である。
4. 技術の習得までの期間が長い
その原因が技術者育成の仕組みが業界的にない。親方制度が依然として存在している。そのために、新しい人の参入が少ない。職人として見られることが多いために、職業としての魅力に欠けると考える若年層が多い。

5. 大企業を除いてデジタル化が遅れている
社内の情報の伝達が未だに紙のやり取りであり、ペーパレス化が遅れている。伝達方法も電話、FAX、口述もまだまだ存在している。これは、建設業が現場作業を中心に構成されるからである。
6. 大企業を除いて同業他社や他業種との連携が遅れている
特に中小零細企業、一人親方事業主等は特定の業態に特化しているために、情報量が少ない。他業種がシナジー効果を求めて連携に動いている割合と比べると、建設業はその割合が極めて少ない。
7. 大企業を除いて経営に対する勉強意識が少ない
財務諸表が読めない方も多く、セミナーや勉強会の参加意識が少ない。

1. 労働生産性が改善されない
 日本建設連合会の『建設業ハンドブック2021』によると、過去20年間を見ると全産業で20%程度の労働生産性が向上している。製造業については50%向上。これは機械化によるところが多い。しかし、建設業は横ばいである。その原因としては人件費の高騰、人材不足、工事単価の下落等が挙げられる。
 建設業の業務は「施工業務」と「事務業務」から成り立ち、人手と時間を要する業務が多い。
「施工業務」は人手という労力が必要となり、ロボットや機械化によって作業効率を上げていく。これは、規模の大小を問わない。
「事務業務」は受注前から竣工後までの工事期間中にずっとついて回る業務なので、長時間になり人手を多く必要とする。基本的な事務業務だけでも、
「受注前」 精算及び見積の書類作成
  ↓
「受注後」 設計図面、確認申請関係書類作成
  ↓
「施工中」 各種工事手続、施工図作成、工程表作成、施工記録作成

  ↓
「竣工後」 工事完了届、竣工書類作成
≪対策≫
「施工業務」
 建設ロボット導入と機械化
規模の大小を問わず「人がやる作業をロボットや機械化」して効率を上げる。これをやらなければ利益に繋がらない。
 労働者数や労働時間の削減
製造業の「ムリ、ムダ、ムラの改善」のような仕組化された考え方が浸透していない。いかに労働者数と労働時間の削減を各自で考えることが利益に繋がる。これは、長時間労働の改善になる。
 作業者の多能化
建設作業者の作業の種類は29種類ある。一人の作業者が複数の作業を行うことが可能ならば作業効率は格段に向上する。そのためには、作業者に複数の資格を取らせる。
 現場での移動時間の削減
作業者は複数の現場を掛け持ちすることも多い。また、建設会社も同時に複数の現場を受注することも多い。現場監督は、全体像を見て効率的に作業者を配置することが求められる。
 外国人雇用制度の改善
特定技能者を社員として多く採用する。将来的に日本への永住の可能性が大。
■建設労働者とその環境問題
① 長時間労働(時間外労働)
② 技能労働者の高齢化
③ 社会保険の加入促進
④ 週休2日制の促進
⑤ 変形労働制の導入
⑥ 女性労働者の活用

① 長時間労働(時間外労働)
建設業は全産業平均と比較して年間300時間以上の長時間労働の状況。
特別条項付きの36協定でも年間720時間以内の上限規制となり、違反の罰則規定は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金。
② 技能労働者の高齢化
作業労働者の年齢は55歳以上が40%。60歳以上は今後10年間で大半が引退する。2025年には技能労働者が50万人~100万人不足する。
③ 社会保険の加入促進
国交省は、平成27年から一次下請企業を社会保険加入業者に限定する取組みを実施している。特に「一人親方制度」を悪用している建設会社も多い。
従来から専門職である一人親方は社会保険に加入していない。本来は社員であるのに一人親方として業務委託形体にして社会保険料を逃れている悪質な会社もある。将来的には、この一人親方も社員化して自社の生産性を向上させることが多くなる。
④ 週休2日制の促進
今後、人手不足になることは間違いないので、いかに自社に社員として迎え入れることが重要となる。それでなくても建設業は3Kのイメージが強い。
他の業種と同様に週休2日制を一日も早く取り入れるべきである。更に週休2日対象の公共工事を拡大する。
⑤ 変形労働制の導入
建設業は繁忙期と閑散期があることが多い。特に入札で仕事を取っている企業は特に多い。
繁忙期に集中して閑散期にまとめて休暇を取る仕組みを考える。これが離職率を少なくする手段ともなる。
⑥ 女性労働者の活用
女性が働きやすい職場環境の整備。建設女子の積極採用。
トイレ、更衣室の充実。男性の言葉使いの改善。女性用作業着、作業職種の多様化。

2. 多重請負構成
現在の日本の建設業の業者数は47万業者。その90%が中小零細企業や個人事業者。土木工事は大企業が87%を占めている。一方で建設は中小零細事業者が83%を占めている。

≪対策≫
 技術や経験を有する技能者を社員化または専属化する。
 施工時期を平準化する。
 それぞれの専門業者をグループ化する。
3. 絶対的な資金不足
建設業は会社の業績を示す営業利益は大企業で“6%”、中小零細業者では“3%”と少ない。
≪課題点≫
発注者との施行契約で“製品原価”に当たる費用を全額先払いでもらえない。そのために自己資金か借入資金で立て替えなければならない。この構造は他業種でも同様だが、その金額の大きさが違う。

≪対策≫
 初回金、中間金、完成時金と細かく支払いを要求するか、工事規模によっては毎月支払いを要求する。
 住宅工事の場合は建物の完成時(保存登記時)にしか銀行から融資が出ないので細目に支払いを要求する。
 複数の工事を同時に行う場合は、入出金を正確にする。
 一件の工事ごとに銀行から短期融資を調達する。
4. 技術の習得までの期間が長い
建設技術の習得は一般的には10年必要と言われる。また、各種資格も必要とされる技術もある。これらの資格は公共工事等の入札には必須要件とされる。長年、日本では技術の習得は一種の師弟関係によるものも多かった。
≪対策≫
 未経験者でも3年で一人前、5年で技能者にする仕組みを構築する。
 3年間で技術習得計画を作成。
 5分間ビデオを作成⇒各自の携帯(スマートフォン)で繰り返し学習する。
 現場で作業者がカメラを身体に装着して、遠隔で技能者が直接指示をする。
 定期的に映像を元に研修する。
 視覚を取らせる。
5. 大企業を除いてデジタル化が遅れている
中小零細の建設会社は未だに“アナログ作業”が多い。各種建設業専門ソフトの活用。現場との情報共有のIT化によって労働時間の短縮を図る。今後は少ない人数でこれまで以上の成果が求められる。
≪今後、建設産業において活用が必要とされる技術と対策≫
 携帯端末
スマートフォンやタブレット端末等を活用して遠隔地から現場の状況をリアルタイムで確認する。図面管理、施工管理をタブレットで行う。
 アシストスーツ
建設現場で導入し、作業者の負荷を大幅に軽減。

 ウェアラブル端末(眼鏡型、時計型)
現場でのマニュアル手順等を見ながらの作業で効率化を図る。遠隔地の熟練者による遠隔作業指示を可能にする。
 管理業務の効率化
遠隔による現場監督業務、映像を活用したペーパレス化により省人化して一人で複数の業務をこなす仕組作りが必要。
 受発注業務、設計・施工管理を在宅ワークにする
 デジタル化に活躍するデジタルツール例
 ストラクションサイト
360度カメラを使い、建設現場の品質や安全管理の向上、業務効率化を推進するツール。スマホやタブレット、PCからいつでも現場の状況を確認でき、メールや通話、チャットで現場に指示や連絡を送れる。
 タクシノワ
建設現場に特化したWi-Fi環境を構築。デジタル活用にはインターネットが欠かせないがコストがかかる。Wi-Fi整備の負担を軽減し、効率よく普及させるサポートを提供するサービス。
6. 大企業を除いて同業他社や他業種との連携が遅れている
現在、小売業は同業や他業種と連携して業績拡大を進めている。製造業も同業者との連携を深めて独自の製品開発を進めている。その点、建設業は各専門性が強いために連携が十分ではないことが成長に歯止めをかけている。
≪対策≫
 中小零細業者は同業者間で組合またはグループ化する。
 業態の異なった業者ごとに連携して仕事の平準化を図る。
 大手企業の専従業者(会社)となる。
7. 大企業を除いて経営に対する勉強意識が少ない
中小企業の建設業の経営者は現場重視の考え方が歴史的に強い。従前は右肩上がりの経済の中で正解とされてきたが、世界の中で先進国である日本も現在は「正しい利益確保を継続させる経営」が必要とされる。
そのためには、業界や組合あげて経営の勉強が必須。

≪必要な勉強項目≫
 財務諸表の理解
 資金繰り表の作成
 事業計画の作成

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